300 円

港の外れにある倉庫街。
あたりを夜の闇が包んでいる。
時折、鉛色の海を舐めるように灯台の光が照らしては過ぎていく。
「10」と書かれた倉庫のシャッターの前に、黒塗りの外車が止まっていた。
その周囲に、一様にいかつい男たちが 3 人、たたずんでいた。
ぴしりとしたブラックスーツの上からですら、抑えようのない暴力の匂いを容易に嗅ぎ取れる。
彼らはいわゆる、裏の世界の住人。シマとメンツが至上命題、血で血を洗う自由業を生業としていた。
「遅いな……」
呟いた年かさの男が煙草を咥えると、隣に控えていた舎弟がライターの火を差し出す。
その明かりで煙草の男は、ちらりと左手のロレックスを見た。
文字盤に浮かび上がった針は、2 時を 30 分ほど回っている。
「ふぅ……」
やや苛立たしげに吐かれた溜息と共に、紫煙が長く伸びる。その煙が風に薄く散じた時、彼らの耳に「ぼっぼっぼっぼっ」という低い排気音が聞こえてきた。

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