黒船を飲み込んで

このところ、Palm 関連で大きな動きがないと思っていたら、久々に大きなニュースが飛び込んできましたねぇ。
ACCESS による PalmSource買収と来ましたよ。


NHK のニュースで取り上げられたりして、世間様的にもそこそこのニュースとして扱われているようです。
この話題が特に注目を集めているのは、ソフトウェア業界において日本の企業による海外の企業買収が行われたという珍しいケースだからなのだそうですが。
Palm ユーザーの側からしてみると、


・現在、日本は Palm デバイスをライセンスして製造・販売するメーカーが存在しない、言わば空白地帯
    ↓
・日本の企業が PalmSource を買収
    ↓
・Palm デバイスが日本において復活するかも?


……というあたりの違った角度でやっぱり注目のニュースと言えましょう。


じゃあ、果たして Palm デバイスの復活はあり得るのか?

う〜ん。
とりあえず、可能性について探ってみましょう。


現在、考え得る Palm デバイスの形態としては、大きく分けて 2 種類があります。
まず、昔ながらの携帯情報端末としての PDA。
それから、携帯電話と PDA が結びついた「スマートフォン」。
両者共に Palm OS の搭載されたものは、主として欧米圏で出回っています。


日本では、一時期、本家である PalmSONY が Palm デバイスを出していたものの、相次いで日本市場から撤退。
特に SONY の場合は、日本だけでなく北米など世界で展開していた PDA 事業そのものをやめてしまうことになりました。
この状況が現在の空白地帯を生んでいるわけですけれども、それを考えると、すでに大手が手を引いている状況で PDA という形での復活は考えにくいでしょう。


じゃあ、スマートフォンとしてはどうか?
これが今回の話で、大きく引っかかるポイントとなります。
ACCESS の買収したのが、Palm OS デバイスを製造・販売しているメーカーだったなら、まず間違いなく「買収したメーカーの Palm OS に、ACCESS のブラウザ『NetFront』を標準搭載して販売」という道筋があるわけですが、残念ながら、今回買収したのは OS を作っている会社。
Palm OS のようなタイプの組み込み OS というのは、使用の是非を Windows や Linux のようにユーザーの手に委ねられることがないため、デバイスを作っているメーカーがそれを採用すると決めない限り、どんなに優れていようとも使われることがありません。
ところが、日本の携帯は、メーカーが作りたいものを作って売れるわけではなく、キャリア側の主導で製品戦略が立てられていますから、メーカーの採用決定のそのまたさらに上にキャリア側の採用決定が必要になってきます。


日本のキャリアが、果たして Palm OS の採用に動くか?
これは非常に難しいところでしょう。
例えば、ドコモはすでに M1000 という端末でスマートフォンを採用しています。
ただし、搭載されている OS は Palm OS ではなく Symbian OS。
これは、本体を製造しているメーカーがモトローラで、モトローラが採用している OS が Symbian だからという見方もできますが、いずれにしても Symbian OS が先行しているのは Palm OS にとってはやや不利と言えます。


まあ、キャリアにとって、最終的には提供できるサービスの方が重要であって、そのために採用する OS についてはそれほど重視されていないのかも知れませんが。


ドコモ以外のキャリアを見た場合、携帯からスマートフォンへのシフトの動きは、少なくとも表面的にはあまり見られません。
これは、各キャリアがそれぞれに独自のコンテンツサービスを打ち出しており、サービスの利用料と通話料で稼いでいる現状があり、これに対してスマートフォンは通常のインターネットアクセスができるなど、キャリアのビジネスモデルに即していないからと言えます。
今後はどう変わっていくかはわかりませんが、少なくともスマートフォンの採用が各キャリアに何らかのメリットをもたらすようにならない限りは、動きが起こるとは考えにくいように思います。


……と、いうことで、キャリアによる採用決定が最大にして唯一の難関とも言えますが、ここには逆風がびゅーびゅー吹いているのが今の状況なわけです。


ACCESS の側に立ってみた場合、今回の買収はどうなのでしょう?
ACCESSに聞く「なぜ、Palmを買ったのか」
……というインタビュー記事があるわけですが、ここにある発言を見る限り、ブラウザというアプリだけでなく、そのベースに位置する OS を手に入れることで影響力を大きくしたかったというのがあるようです。
となれば、採用を働きかけられるだけの成算があってのことなんでしょうが、これは今後、ACCESS がどういう成果を上げるか見ていかないことには何とも言えないでしょうねぇ。


(少なくとも、「Palmのコミュニティに放り込めば、アプリも簡単に作ってもらえる」という認識は、コミュニティに対してどこか舐めきった意識を感じますけども)



……で。
日本での Palm デバイスの復活は厳しいんじゃないかというのが私の結論なのですが。
それを踏まえた上で、敢えて言いたい。


頼むから復活してくれ。


日本市場で再び Palm デバイスが出るようになれば、Palm OS や PalmDesktop の日本語サポートもだいぶマシになると思うのですよ。
Palm OS 自体には、日本語のバージョンも存在している(はず)ですし、少なくとも親会社が日本の企業になった以上、日本語バージョンのプレゼンスはちょっとは上がって然るべきなんじゃないかと思います。
あと、Palm Desktop。地味に重要。
ローカライズされたリソースを別に持って上書きできるような、国際化対応もそれなりに考慮された設計になっているのに、そこの部分をオープンな情報にしていないために、私なんかが苦労する羽目になっているわけで、ここはマジでどうにかして欲しい。


今の Palm のコミュニティは、ここに大きな労力を払わされているわけで、これがものすごくもったいないのです。
こんなところで苦労するよりも、もっと楽しい使い方とか面白いアプリケーションとかをみんなで考える方が、よっぽど有益なのになぁ。


Palm OS によってもたらされる体験をこよなく愛する一個人として、ACCESS にはがんばって欲しいと思うわけです。
(もちろん、ここまでユーザーレベルで支え続けてきたコミュニティに、それなりに敬意を払った上で、ね)

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Comments
さらみ | 2005/09/10 12:35
ども。

思うことは、Palmの日本語版発売だけどもSONY日本語版Palm撤退後にACCESSがでてきたところでACCESSがやる気なのかがイマイチ見えてこないんです。

確かに企業買収は利害関係があるのは当たり前ですが、トップがPalmが好きだからの一言でも言っていれば、コミュニティの押し上げは底知れずだったのに・・・・と残念でなりません。
(か) | 2005/09/10 22:14
むしろPalmOSが無くなってしまうのではないかという懸念があります。。。
偽Strider | 2005/09/10 22:35
んーまー、活気付けばそれで良いんじゃないかと思いますけど>Palm

ただ、吸収して何をしたいんでしょうね、アクセス社は。
イマイチその辺が見えてこないのと、筐体を作るわけじゃなさそうなんで、できれば日本向け携帯電話とかに載せるアクションでも起こしていただければなあと。
陣来霧 | 2005/09/11 08:34
>さらみさん
そうなんですよね〜。
コミュニティコミュニティと言われても、「じゃあ、アンタら何してくれんのよ?」というところに尽きるわけで、これこれこういう形でサポートしていきますよというのが見えないことには。

>(か)さん
OS そのものについては、なくならないと言うよりもなくせない気はします。
PalmSource そのものが、OS に対してサポートしなくてはいけない義務を契約上負っているはずですし。
ただ、Cobalt が未だに世に出てないということも併せて、開発は確実に鈍化しそうな気がします。
Cobalt 搭載機種が世に出て爆発的に売れる、というシナリオがない限り、後継は期待できないでしょうねぇ。

>偽Strider さん
PalmSource の資源を得て、何をするかというアクションプランや、何を作るのかというロードマップが示されないと、判断しようがないですねぇ。
お手並み拝見、お手並み拝見。
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 やっぱり、Web上の情報をきちんとウォッチしている人はしているんだなぁと感心す...