乗鞍トライアル(後編)

ほんでは、昨日の続き。


●8/28(日)
とうとう、この日が来てしまったわけです。
乗鞍の坂に挑む日が。

本日の、おおよそのタイムテーブル。


5:00 起床
5:30 朝食
6:30 会場に向けて出発
6:50 会場で、マイクロバスに荷物を預ける
7:30 クラス別に順次スタート


起床時間や朝食はスタート時間からの逆算です。
食べ物が消化されるのにかかる時間はだいたい 2 時間。
きちんと朝食を摂っておかないと力が出せませんし、消化されない状態で走ると気持ちが悪くなったりお腹が痛くなったりという恐れがあります。
そんなわけで、眠い目をこすりつつ起床。
並木荘の朝食はごはんにおみそ汁、焼き魚は鮭という基本に忠実な純和風です。
これがまた美味い。
しっかりごはんをお代わりしてしまいました。


朝食が終わったら、さっそくレースの支度。
私がもたもたしている間に、Gan さんや S さんはさっさと着替えてしまっていたのですが。


……う〜む、やっぱりノーパンにするべきなのだろうか?
ぴっちりとしたズボンを目の前に、しばし悩む私。
確かに、トランクスを着用したままこのようなものを穿いたら、ヘンな風にずれたりしてむずがゆくなるわけで、レースに集中するためにもそういった小さな問題がなくなるのは良いことなのです。
だがしかし、ノーパンですよ?
英語で言ったらフリーダムですよ?(違……わないこともなくもない)
その上からズボンを穿くとは言え、ノーパン。
人としての尊厳に関わりそうな気がしてなりません。
さりとて、実際にノーパンで穿いてみたことがないのに、未経験の状態で批判するのもいかがなものか。
「実践せざる者に批評する資格などなし」と私は思うわけです。
……ええい、ままよ!


意を決し、トランクスを脱ぎ捨て、パッドがもっこりと膨らんでいるズボンを装着!
……うム、なるほど。これは確かに、トランクスの煩わしさからは解放される。
とりあえず、このままレースに出てみて最終的な判断を下すことにして、昨日買ったばかりのジャージに袖を通していると。


なんか、視線が。
昨日も同じようなシチュエーションがあったなと思いつつ振り返ると、Gan さんが。
……見てる、ケツを見てるよ……(汗)。
ズボン越しのラインから判断したのか、満足げな連呼。


  _  ∩
( ゚∀゚)彡 ノーパン!ノーパン!
 ⊂彡


うわぁ。
なんでこの人こんなに輝いているんだろう?


後から考えると、これが今日一日の中で Gan さんの 2 番目に満ち足りた表情でした。



で、支度を終えて、車で会場付近の駐車場に移動し、そこから自転車で会場へ。
レースの前に、荷物をマイクロバスに預けておくのです。
大抵の場合、小さなナップザックやヒップバッグに、飲み物やちょっとした食べ物、それと寒さをしのげるようなジャージなどの衣類を入れておきます。
これはゴール地点に到着した後の備えで、飲食物はエネルギー補給のため。
衣類はと言うと、下山の際に着ます。ヒルクライムですからひたすら上に登り詰めるわけですが、登り切ったら帰りは乗ってきた自転車で下らなくてはいけません。汗を吸った服のまま、しかもスピードが出やすくて風を目一杯受ける下り坂を行ったら、体が冷えて風邪を引いてしまいます。
そんなわけで、実はけっこう、荷物を預けておくことが重要なのでありました。


さて、あとはひたすらスタートを待つばかり。
乗鞍のヒルクライムはオンロードタイプの自転車で参加する人が多く、年齢別にクラス分けされています。また、トップクラスの選手は別枠で一番最初のスタートになります。
私が乗っているのはマウンテンバイク。これは「男子 MTB」というクラス分けになり、スタートも最後の方です。


いや〜、スタートを待っている間、いろ〜んなことを考えてしまうのですよ。
「イヤだなぁ」とか「しんどいなぁ」なんてのは当然、「なんで申し込んでしまったんだろ」と過去の自分を責めてみたり、「つ〜か、自転車で坂を上がるなんてアホ競技、考えたヤツ出てこい」と先人を呪ってみたり。
前日の自転車の故障が、もっと深刻だったら出走しないでも済んだかもなぁ、なんていうことすら、ちらっと脳裏をかすめました。
自信があればこんなこともないのでしょうが、あいにく、自信満々でいられるほど練習をしたわけでもありません。
去年と今年の状態を比較して、ちょっと整理しておくと。


●去年に比べて有利な点
・去年は Gan さんにマウンテンバイクを借りたが、今年は自前のマウンテンバイク。これにより、3kg ほど車重が軽い
・初参加でコースを知らない去年に対し、今年はある程度勝手がわかっている
・筋トレで基礎代謝を改善し、体脂肪率もだいぶ落ちた


●不利な点
・体力が落ちた気がする
・去年にも増して、自転車で走ってない


有利な点こそあれ、自信につながるほどのレベルではありませんし、かえってどろどろと不安が鬱積していきます。
うぅう、完走できるんだろうか、今年は。


ず〜んと沈んでいたその時、ふと斜め後ろを振り返ると、なんだか見覚えのある人が。
あ、会社の F さんだ。
社内では自転車乗りとして知られている F さんも、去年からの乗鞍参加者。今年も出場しているのは知っていましたが、3,000 人以上も参加する大会の会場でまさか会うことができるとは。
クラスも同じ「男子 MTB」。
ただし、去年の成績を比べると、私が 2 時間 22 分だったのに対し、F さんは 1 時間 52 分と、初参加としては 2 時間を切る好タイムを出しており、肩を並べるべくもありません。
ともあれ、こうして会えたことは非常に心強く、スタートまでいろいろと話をしていました。


そんな中で、こんなアドバイスをもらいました。
「ここのコース、最初もけっこうきついから、前半はひたすら体力を温存して、後半にスパートかけるとゴボウ抜きできるぞ」
う〜ん、果たして私にスパートをかけるだけの体力がトータルであるのか。その点については疑問があるものの、考えてみれば確かに、去年は体が案外動くことにはしゃいでしまって最初の内に体力を使い果たしてしまった記憶があります。
他に作戦があるわけでもないので、ひとまず F さんの戦術を踏襲してみることにしました。


そして、スタート。
F さん作戦に従って、序盤から中盤まではとにかく体力の温存に努めることにしました。
具体的には、ペダルの回転数を一定に保ち、坂の傾斜の違いにはギヤの変更で対応するという方針。なるべく足に痛みを感じないように、かつ回りすぎないようゆっくりと、スムーズなペダリングを心がけて登っていきました。


乗鞍のコースは、大きく 3 つのエリアに分けることができます。
スタートから第一チェックポイントまでの 7km。
第一チェックポイントから第二チェックポイントまでの 8km。
そして、第二チェックポイントからゴールまでの 7km。
全部で 22km。
恐ろしいことに、全体を通して、坂が少しでも下っているポイントは 1 箇所で、それも数十メートル程度。平坦なポイントも 2、3 箇所しかありません。
他は全て曲がりくねった上り坂で、スタートからゴールまで全体を通しての高低差は 1400m。
スタート地点からゴール地点を見上げると、もうなんと言うかハルカカナタにそれっぽいのが見える程度です。


第一チェックポイントまでの特徴は、比較的緩やかな坂が多いこと。
正確に言えば、スタート直後のスタミナ充分な状態だけに、登りやすいと思わせる坂が多いことでしょうか。
で、周りはガンガンスピードを上げて登っていくわけですが、私はとにかくローペース。
去年は、どこの誰とも知らぬ人を仮想ライバルに仕立て上げて抜かれたら抜き返すようなことをやっていましたが、今年はひたすら我慢の子。
もちろん、なんだか元気よく抜かれると悔しいことは悔しいので、「見とれよ、後で絶対に抜き返しちゃる」と心中吠えておりましたが。


そんなわけで、去年は第一チェックポイントまで 30 分そこそこで行っていましたが、今年は 35 分ほどかかっていました。
まあ、焦ってもしょうがないと、そのまま第二チェックポイントを目指します。
コースは全体的にアスファルト舗装がされていますが、中盤のエリアには一部にコンクリートが打ってあるだけの箇所があります。
あまりに傾斜がきついため、車で通行するためにコンクリートに刻み目を付けてあるのです。
これを自転車で登っていくのですが、言うまでもなくすんごくキツいのですよこれが。もう、壁にしか見えないし。
こういう難所はギヤを上げて、ダンシング、いわゆる立ち漕ぎで乗り越えていきます。でも、他の緩めの坂は座ったまま。
「ペースは一定に」を念仏のように心の中で唱えながらクリアしていきました。
中盤のエリアはこんな感じに「壁」という難所があるため、10km 付近になると自転車から降りて押しながら歩いている人の姿が見られるようになります。
やっぱりキツいもんなぁ。


途中、先々のエネルギー切れを回避するために、ジャージのバックポケットに入れてきたゼリー飲料を走りながら飲もうとしたのですが、ねじ込み式のキャップが外れてくれません。
しょうがないので路肩に自転車を寄せて、停車して手でキャップを開けようとしたのですが、これが開かない!
やむなくポケットに戻して走行を再開しました。特に意図はしていませんでしたが、結果的にはこれが短い休憩となって良かったようです。


第二チェックポイントを過ぎると、あとはゴールを目指すだけ、なのですが。
実は一番キツいのがこの終盤。
中ほどで森林限界に達するため、風を遮る物がなくなり向かい風や横風をモロに受けますし、坂道の傾斜も緩まるどころか長めにだら〜っと続く坂が待ちかまえています。
また、見通しが良くなって一気に視界が開けるので、残り 5km 地点のあたりでコースが残りどれだけか見えてしまうというのもポイント。
残りの道の長さに、思わず目の前が暗くなってしまいそうな心理的なダメージを受けてしまいます。


去年もこのあたりでもうへろへろだったのですが、今年は体力の温存策が功を奏して思ったよりも元気。
ペースはそれまでとあまり変化していないのにもかかわらず、疲れてばてばてになった他の人をどんどん抜き去ることができました。
うむ、この作戦は非常に有効。
とは言っても、余力は残してあれど余裕があるわけではないので、だいぶ必死でした。
しかし、去年はよろよろと入っていったゴールに、今年はラストスパートで追い込みをかけて突入していくことができ、だいぶレースらしい感じでゴールインできました。
手元のタイマーを見ると、1 時間 59 分 32 秒でゴールしたことになっています。
このタイマーは自転車の前輪に取り付けたセンサーと連動しているため、実際に走った時間のみを計測しています。
レースの公式タイムとしては、スタート直後の先頭が動き出してから自分が動けるようになるまでの間と、ゼリー飲料を飲むために停車した分のタイムロスがあるため、2 時間はオーバーしてしまっています。
しかしそれでも去年に比べれば 20 分ほどの短縮。
かなり上出来と言えるのではないでしょうか。


ゴール地点は、すでにゴールした選手で溢れかえっており、その中をマイクロバスに積んだ荷物を目指してよれよれと歩いていくことに。
荷物から引っ張り出したスポーツドリンクで喉を潤し、あんパンでエネルギーを補給。
先にゴールしていた F さんとレースの感想を話し合ったりしながら、帰り道を下っていきました。


乗鞍のヒルクライムの醍醐味は、レースそのものよりも、帰り道にあると言っても過言ではありません。
とても見晴らしが良く、美しい景色を眺めながら、自転車で走っていく。
これがもう最高。


帰り道の途中からの眺望


しかも、下り坂だからけっこうなスピードが出て、これがまた快感です。
途中にはもちろん、これまでに苦戦させられた坂も出てくるわけで、なんだか仇を討っているような気分でカーブを次々とクリアしていきます。


あんな下の方から登ってきたわけですよ


いや〜、これだからきっと、今年も参加申し込みしてしまったんだよなぁ。
来年また参加するかどうかはわかりませんが。


スタート地点まで坂を下った後は、そのまま宿に戻り、並木荘の露天風呂でまったり。
「こうやって露天に浸かると、『夏が終わったなぁ』って気分になるんだよねぇ……」という Gan さんの表情は、最高に満足そうでした。


タイムが大幅に更新できたという収穫を得た今年の乗鞍。
非常に楽しかったです。
いろんな意味で、日常得ることのできない大きな達成感がありましたねぇ。
……いや、だから、来年も参加するとは限りませんけどもっ。



(ちなみに、帰りは車で行■の駅まで送ってもらった後、自転車を詰めた輪行袋を担いで戻って参りました。マウンテンバイクとしては 10kg と軽量な方なんですが、それでも自転車はやっぱり重かったです)



(ロボットってやっぱりすごいなぁ)

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Comments
Gan | 2005/09/01 07:31
お疲れさまでした。
来年は…
と言いつつ、気がついたら参加申し込みしているんですよねぇ。
さらみ | 2005/09/01 08:25
陣さん、すごいなぁ。
山を自転車で山を登るなんて、マラソン以上に自分をいじめる必要がありそうですね。

でも、終わった後の爽快感を文章で感じとると楽しいんだろうなぁ。

自転車には僕は手を出しませんけど、来年のためにこれからトレーニングがんばってください。
いなあも | 2005/09/01 19:57
で?結局ノーパンはいかがでした?
ちなみに僕はレーサーパンツを穿く時は必ずノーパンです。
陣来霧 | 2005/09/01 23:45
>Gan さん
来年もまた、GW のあたりに申込用紙を封筒に詰めてたりするんですかねぇ……。

>さらみさん
終わった後の爽快感のために、苦行に耐える。
下品な言い方すれば、開放感のためにおしっこ我慢するみたいな(激違)。
来年のためのトレーニングは……とりあえず筋トレ継続ということで!

>いなあもさん
う〜ん、トランクス+レーサーパンツよりは楽でしたねぇ。
でも、まだ心理的抵抗が……。
ma | 2005/09/02 10:30
ある程度より速くなるには、たくさん乗らないと難しいですよ。筋トレだけだと心肺が強くならないし。

ところで。
僕ぁ、今朝も自転車で出社したのでノーパン出勤ですよ。
ビル1F受付お姉さんたちがノーパンであることを知っているかどうかは謎ですが。
陣来霧 | 2005/09/03 08:34
>ma さん
お姉さん方に通報します(鬼畜)。
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